記憶の彼方になる前に

観ては忘れる観劇記録…

父の遺品

父は物を持たない人だった。

お札は運転免許証に挟んで小銭はポケットに入れっぱなし。財布というものを持っておらず、そしていつも手ぶらだった。

ハンカチ代わりのタオルを腰からぶら下げて、時にはそれがハチマキになった。

いつもサンダル履きで靴は滅多に履かなかった。

 

父が亡くなった時、「お父様のお気に入りの物を棺に入れてください」と葬儀屋に言われたが、入れる物が何も無くて家族一同とても困った。

仕方がないので、タバコと時代劇が好きだったから本棚から「鬼平犯科帳」の文庫本を引っ張り出してきて棺に入れた。

 

父の死後は父の幼馴染達が「一緒に居たいから形見分けが欲しい」と言って父の衣類を殆ど貰ってくれたので少ない服もすぐになくなった。

さすがに肌着類は処分したが、主な遺品はサンダルとお札入れ代わりの免許証、腕時計だけ。

 

元々物を持ってないから私達遺族が遺品処理に悩むことも、大量にゴミを出すこともなかった。

 

父は50代で体調を段々と崩し、70手前で亡くなった。

物を持たない結果として自分の身じまい(今は終活っていうのかな?)をキチンとして亡くなったと思う。見事としか言いようがない。

 

身内や友達、地域の人との繋がりを大切にする人だった。だから物がなくても平気だったのかもしれない。